本研究は、双曲型および分散型の非線型偏微分方程式に対する零条件を確立し、種々の非線型波動現象の背後に潜む数学的構造を抽出することを目標としている。 本年度前半は非線型シュレディンガー方程式(以下NLSと略す)の小さな初期値に対する解の爆発およびその最大存在時間の上限の評価について考察した。昨年末に宮崎大学の北直泰氏が得たNLSの小振幅解の有限時間爆発に関する結果を手がかりに、漸近解の構成を通して爆発点付近での解の挙動の解析を試みたが、特筆すべき成果を得るには至らなかった。 本年度後半は川原雄一朗氏(同志社高校)と共同で、質量共鳴がある場合の非線型クライン・ゴルドン方程式(以下NLKGと略す)の解の長時間挙動について考察した。一般に、質量項の間にある意味での共鳴関係がある場合にはNLKGの解のエネルギーは時間とともに増大していくことが知られているが、一方で、非綿型項の形状に或る種の構造が有る場合にはエネルギーの増大が起こらないことも知られている。今回の共同研究により、質量共鳴下でもエネルギー増幅が起こらないための非線型項の形状に関する新しい十分条件を得ることに成功した。この成果は"Global solutions for two-dimensional nonlinear Klein-Gordon systems in the presence of mass resonance"と題する論文にまとめて国際誌に投稿する予定であり、現在その準備中である。
|