研究概要 |
まず,昨年度の研究に引き続き,経路空間上の反射壁拡散過程の構成とその挙動の解析を行った.n次元Euclid空間の領域内をランダムに動き,境界では反射するような弦の運動は通常確率偏微分方程式により記述されるが,その解の存在を示すのは現状では非常に制約のある状況下でしか行われていない.先行研究において両側ピン留め経路空間において部分積分公式が示されていたことをふまえ,本研究では無限次元空間における有界変動関数の理論を援用することにより,領域の形状について従前より弱い条件の下で部分積分公式の成立を示し,Dirichlet形式の理論に基づいて対応する反射壁Ornstein-Uhlenbeck型の確率過程の構成および付随する無限次元確率微分方程式(Skorokhod表現)の導出を行った.昨年度は片側ピン留め経路空間について同様の研究を行っていたが,両側ピン留め空間においては数学的に一層困難な点が生じ,そのことを解決したのが本年度の成果といえる. 次に,フラクタル解析に関する研究を昨年度に引き続き行った.ネステッドフラクタルと呼ばれるクラスを含む範疇のフラクタルに対して,その上の自然な拡散過程のマルチンゲール次元が1であることを証明した.これは1980年代後半にシェルピンスキーガスケットの場合にのみ知られていた事実で,一般の場合は未解決の問題であり,解析手段も確立されていなかった.今回,この間題に対する新しいアプローチ方法を発見し,問題の解決に至った.
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