研究概要 |
昨年度に引き続き,経路空間を典型例とする無限次元空間上の確率解析に関連した研究を行い,特に有界変動関数の理論の展開を推し進めた.従来の研究で,抽象ウィーナー空間上の有界変動関数には1階微分に相当するヒルベルト空間値の測度が付随することが知られていたが,その測度の存在証明は抽象的な構成によるものであり,測度の具体的な意味付けはなされていなかった.本年度の研究で,有界変動関数がある集合の定義関数であるという典型的な場合において,対応するヒルベルト空間値測度の全変動測度が,集合の位相境界の適切な部分集合の,余次元1のハウスドルフ測度として表現されることを証明した.ここで抽象ウィーナー空間上のハウスドルフ測度はFeyelとde La Pradelleによる先行研究を更に一般化して定義されるものである.この表現はユークリッド空間における同様の結果と類似しているが,ユークリッド空間の場合に証明の鍵となるルベーグ測度の二倍条件が無限次元空間上のガウス測度では成立しないため,やや意外な結果に思われる.この結果により,ガウス・グリーン型の部分積分公式や,対応する反射壁Ornstein-Uhlenbeck過程のSkorohod表現に現れる測度が境界集合の表面測度であるという自然な解釈を正当化することができた.今後,無限次元空間における幾何学的測度論を展開していく上で,足掛かりとなる結果であるといえる.現在論文を執筆中である.
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