今年度は、積分変換の大域的構成にとって不可欠な、複素幾何光学解について考察を行い、一連の結果について研究発表や論文をまとめた。また、当初の目的であった分散型方程式の特異性伝播に関する考察も行った。最初の研究計画では、複素幾何光学を利用して、従来のように特異性の伝播を考察することが目的であった。この研究に関して、最近類似の結果が得られたとの情報がある。しかし詳しく検討を行った結果、扱える分散型方程式の枠組みが、今年度の研究成果で得られたものの方が優れていることがわかった。より詳しくは、主要部がラプラシアンのべき乗とは限らない作用素の特性曲線の詳細な挙動を明らかにすることで、今まで得られなかったタイプの分散型方程式に関する特異性伝播現象を説明することが可能となった。つまり、従来理論の適応範囲を広げることができた。 また、一連のWang氏(Taiwan)等との共同研究によって、複素幾何光学解の新しい構成法を提案することが出来た。この構成法は、工学的逆問題に応用されるなど、当初の期待以上の成果を上けることができた。この構成法では、分散型方程式の特異性伝播を考察する過程で、FBI変換を詳しく検討した結果ともいえる。これらの結果を学術論文等で発表した。この種の応用は、数学的逆問題において、多くの研究者の興味を集め始めている。特に、大域的積分変換であるFBI変換を新しい問題に適応するという、次への問題を提供した点でも意義深いといえる。
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