球面に値をとる調和写像の特異性と安定性の研究をおこなった。この問題は液晶などの物理的モデルと関係し、応用上も重要な問題である。特異性を持った調和写像の研究は、次数0の斉次な調和写像の研究に帰着される場合が多い。よって球面間の調和写像の分類問題に密接に関係する。今年度は次元の等しい球面間の滑らかな調和写像の安定性について解析した。3次元以上の球面から任意のコンパクトリーマン多様体への定数でない調和写像はすべて不安定であることが知られている。この場合調和写像に付随するJacobi作用素の第一固有値は2-球面の次元以下である。そこで第一固有値はちょうど2-球面の次元となるのはどのようなとぎかを考察した。得られた結果は3次元以上の次元の等しい球面の間の定数でない調和写像に付随するJacobi作用素の第一固有値が2-球面の次元であるときは、この調和写像は直行行列の差を除き恒等写像であるというものである。これまでの調和写像の安定性の研究は安定か不安定かのいずれかを調べるものが中心であり、今回得たような第一固有値から調和写像を分類するというものは新しい問題意識である。また次元の等しい球面間の調和写像については、定数でない調和写像の中で、恒等写像が最も不安定性の低いものである、という、極めて自然な予想を正当化したものであり、今後一般のコンパクトリーマン多様体に値をとる調和写像の安定性の研究への応用が期待できるものである。
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