本年度は、Bernstein多項式の一般の高次元凸多面体上での類似物の構成、およびその諸性質を調べ、一連の結果を論文にまとめた。論文は砂田利一先生還暦記念研究会のProceedings(Contemporary Mathematicsから出版予定。査読付きの出版物。)に投稿し、既に受理されている。以下で、この研究の背景と結果を説明する。 Bernstein多項式とは元々BernsteinがWeierstrassの多項式近似定理を証明するために導入した単位閉区間上の多項式である。その後高次元標準単体や超立方体に対しては一般化されており、Abel-Ivan、Hormanderによる高次元標準単体上のBernstein多項式の漸近展開が知られていた。2007年にZelditchにより、一般のDelzant凸多面体上のBergman-Bernstein近似が導入され、その漸近展開が得られており、特にそのリーマン和への応用が考察された。 ZelditchはDelzant多面体に対応するコンパクト・ケーラー・トーリック多様体上の解析を基にしており、これを一時の凸多面体に拡張することは難しい。そこで私は、より一般の(Delzantとは限らない)凸多面体上で、Zelditchとは独立に、Bernstein測度という概念を導入し、それを基にBernstein近似を導入し、その漸近展開を得た。これはAbel-Ivan、Hormanderによる前述の結果の拡張になっている。 更に有限台を持つBernstein測度の分類とその構成法を2004年のZelditchとの共同研究で既に得られていた技術を用いて得ることが出来た。 私の導入したBernstein近似は、ZelditchによるBergman-Bernstein近似とは異なる。この研究では凸多面体がDelzantの場合、両者が一致する条件を得たが、そのうちの一つは、Delzant多面体の格子点から定まる単項式埋め込みによって得られる、トーリック多様体上のFubini-Studyケーラー計量がDonaldsonの意味でbalancedであるという条件が現れた。Fubini-Study計量以外のケーラー計量に対して、balanced計量のこのような特徴付けが得られるかどうかは未解決である。
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