今年度はCornell大学のJohn Smillie氏と共同で、ある種の拡大性や双曲性を持つ力学系同士の間の位相的共役問題について考察した。そのために、一般化された力学系(multivalued dynamical system)に対してホモトピー偽軌道(homotopy pseudo-orbits)、すなわち完全な軌道にはなっていないがn番目の点の像とn+1番目の点が道で結ばれているようなもの、の概念を導入し、力学系がある種の拡大性や双曲性を有するときにそのホモトピー偽軌道はある真の軌道とホモトピックになることを示した。また、2つの一般化された力学系同士に対して「ホモトピー同値」(homotopy equivalence)の概念を定義し、さらにホモトピー同値写像がそれぞれの一般化力学系が誘導する軌道空間上のシフト写像の間の共役写像を誘導することを示した。この事実の証明には、古典的なAxiom A系の理論におけるshadowing theoremをに対して拡張することが鍵となる。 このshadowing theoremを、いくつかのケースに応用した。まず第一に、1969年にMichael Shubによって証明された、境界の無い多様体上の拡大的写像の構造安定性定理に対する新しいアプローチを与えた。同様に、1次元射影空間上の有理写像がそのJulia集合上で拡大的であるときに、それは構造安定である(専門家のあいだではよく知られている)ことの別証明を与えた。さらに最も本質的な応用として、このshadowing theoremを2次元の複素力学系の研究にも適用した。すなわち、あるクラスの双曲的Henon写像に対して構成したHubbard treeと呼ばれる組合せ論的なモデルとJulia集合との問に、位相共役写像を構成するのにこのshadowing theoremを用いた。
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