研究概要 |
今年度も引き続きK3曲面上の複素力学系およびそれに関連した課題について研究した。 まず、K3曲面上の正則自己同型のなす力学系については、Mazurの(2, 2, 2)-typeのK3曲面の実部であってその上の力学系が可積分に見える例(2点を除いて不変な円周で曲面が埋め尽くされる)を発見していたが、これについてSerge Cantat氏と共同で議論した。特に、この例の場合、代数的な第一積分が存在しない事を証明した。 次に、一般に体積保存系におけるKAM不変円は崩壊する瞬間にその滑らかさを失うという事実が多くの物理学者によって観察あるいは予想されているが、この予想に対する数学的なアプローチの可能性について今年度は議論しえ。特に、KAM不変円をパラメトライズする級数を力学系の母関数とみなし、それが微分不可能になる領域と力学系がカオス的振舞いを示す領域との間の関連について考察した。このように「力学系の母関数の微分不可能性」と「力学系がカオス的振舞いを示す領域」との間に密接な関係があるであろう事は、他のクラスの力学系の例(例えば、区間力学系の高木関数やワイエルシュトラウス関数など)において示唆されている。 またK3曲面の力学系に関連して、複素Henon写像に対してiterated monodromy groupを定義することに成功した。その極限集合がJulia集合上の力学系を再現することの証明があるテクニカルな部分を除いて完成した。 最後に今年度は複素Henon写像の力学系に関する論文を2本出版した。
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