本課題最終年度に当たる本年度は、「ひので」衛星により取得された高精度偏光スペクトルデータの解析に注力、太陽外層大気の基本構造である磁場強度の大きい磁束管の形成過程を観測的に初めて明らかにした。この「強い磁束管」は、温度約6000度の太陽表面上で直径約200km、磁場強度約2kGを持ち、100万度以上の温度にある外層の超高温大気のコロナを形作る、大気の基本要素である。強い磁束管は太陽表面の流体運動のエネルギー密度よりも高い磁場エネルギーを有するため、流体が磁場になす仕事のみではその形成は説明できない。米国等の研究者により、流体のなす仕事により磁束管の磁場強度がある閾値に達すると、放射冷却によるエネルギー損失が流体運動によるエネルギー供給を上回り、対流不安定性を引き起こして管内部の物質が落下するために、希薄化した磁束管が収縮し、結果として磁場強度が強くなるという仮説が30年以上前に提出された。しかし、地上からの観測では、地球大気のシーイングの影響により検証出来なかった。研究代表者らは、「ひので」衛星により、太陽表面上で形成される6302Aにある鉄吸収線の高精度偏光スペクトルの時間変動を観測し、そのデータ解析から、数百ガウスの磁場強度の磁束管が、6km/sに達する下降流の発生に伴って、その磁場強度が2kGにまで上昇する現象をとらえることに成功した。また、下降流が磁束管下部で反射したと見られる上昇流も検出した。これは、対流不安定性により磁束管の強度が高められるとする理論予測と極めてよく整合し、磁束管の動的性質の解明に大きく貢献したと言える。また、表面での磁束管の動的性質とそれに対応する上空の加熱現象を関係を探る上で重要な発見である。
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