歯科医学においてはフッ素が口腔内に存在すると蝕抑制があるといわれ、従来からフッ化物の歯面塗布、フッ素入り歯磨剤、フッ素徐放性歯科材料の応用等が行われ、多くの臨床例が得られている。その中で歯質はフッ素が取り込まれると耐酸性が向上することがわかってきた。これまで科学的測定や電子線による測定で、フッ素が取り込まれるのは表層からせいぜい数百ミクロンであり、特に変化が大きいのは数十ミクロンの範囲であることがわかっている。しかしながらフッ素が歯質にどれだけの量、どれだけの深さまで、どのように分布すればよいのかは未だ十分な精度では解っていない。若狭湾エネルギー研究センターで使用可能であるマイクロ陽子ビームによる核反応からのガンマ線を測定することで、大気中で試料内のフッ素の分布測定法を確立することが、本研究の目的である。 実験は元素分析コースの散乱槽とビームダクトの間を窒化シリコン膜等で真空閉止し、散乱槽内を大気圧にした状態で行う。フッ素の^<19>F+p->α+^<16>O反応からの高いエネルギーのγ線(6〜7MeV)はBGO検出器で測定する。また、カルシウム・リンなどからのX線(Ge検出器を使用)を同時に測定することで、歯質中のどの部分を照射しているのか場所の同定を行う。 本年度は使用する陽子ビームエネルギーの決定、稼働台の製作を行った。ビームに起因するバックグラウンド量、ビーム強度の安定性、大気中での位置分解能、の3点に着目して、今後ビームエネルギー2.5MeVを使用することにした。バックグラウンドはBGOで測定、位置分解能はメッシュ標的に対して、Ge検出器を用いた。安定性はファラデイカップによる長時間測定で確認した。
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