計画初年度である本年においては、まず背景事象を理解しCP非対称度測定に最適な再構成パラメータを求めるために、大統計量のモンテカルロシミュレーション事象を生成すると共に実データの背景事象領域を抽出し、解析を行った。 その結果シグナル領域にピークを持つ様なB中間子由来の背景事象はほぼ無視できるが、軽いクォークジェットやB中間子の崩壊トラックが乱数的に組み合わされる偶然背景事象の寄与が支配的である事を確認した。主な寄与はη'→ργモードにおけるρ中間子の広い崩壊幅によるものであり、最も大きなシグナル数と背景事象数をもたらす(ργ)(ργ)モードを用いるとCP非対称度測定における統計有意度が減少する事が判明した。これは当該モードを省き、更にKEKB加速器による順調に蓄積されているデータ量によって改善が見込まれる。 また、上記の様に今年度においては本解析モードのデータ蓄積量が十分では無い事から、予備測定として解析モード同様b→<sqq>^^^-遷移が支配的であり、三体崩壊であるB^0→π^+π^-崩壊におけるCP非対称度測定を行った。この崩壊モードは本解析において解析の各段階が正しく進められている事を確認する為のコントロールサンプルとしても必要である。 約5.35億個のB中間子対生成事象から再構成された377個のπ^+π^-K_sシグナル事象を用い、f_0(980)中間子の不変質量領域においてB^0→f_0(980)(→π^+π^-)K_sのCP非対称度パラメータとしてS=0.18±0.23(統計)±0.11(系統)、A=-0.15±0.15(統計)±0.07(系統)を得た。ここでSはB中間子混合に誘起される間接的なCPの破れ、Aは直接的なCPの破れを表す。これはこの終状態としては世界最高精度の測定であり、いずれの結果も過去の測定及び標準理論との有意な差異は見られない。この結果は国際会議ICHEP2006において発表された他、プレプリントサーバーにhcp-ex O609006として公表され、間もなくPhysical Review Letters紙に投稿される予定である。
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