平成18年度は、ミニマル超対称模型において超対称パラメーターがCP対称性を破る複素位相を持った場合を考察し、この位相がニュートラリーノ暗黒物質の対消滅から生じる宇宙線に与える影響を考察した。 一般にこの位相が大きな値を持つと電子や陽子の電気双極子能率が大きくなり、実験的上限値を超えてしまうが、スカラークォークやスカラーレプトンが10TeV程度より重いと、CP対称性を破る位相が大きな値を持ちうることが知られている。したがって、本研究ではスカラークォークやスカラーレプトンが10TeV程度の場合を中心に解析した。 数値解析の結果、ヒッグシーノ質量が大きな位相を持った場合、ニュートラリーノが対消滅して軽いヒッグス粒子対やWボソン対を生成する過程の断面積が、非常に大きくなりうることが示された。 この位相によって宇宙線中の陽電子のスペクトルがどの程度変化するかを評価した。スペクトルが大きく変化する場合があることがわかったが、それが起こるパラメーター領域では現在の宇宙における暗黒物質の残留エネルギー密度が小さすぎて、観測結果を説明できなかった。逆に、残留エネルギー密度の観測結果を説明できるパラメーター領域では、スペクトルの変化は小さいという結果となった。 以上の研究に加えて、本年度の後半は、暗黒物質のホログラフィック模型と呼ばれる模型について考察した。この模型の枠組みで宇宙年齢を計算し、模型に含まれるパラメーターの値の選び方によって宇宙年齢がどの程度変わりうるかを評価した。
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