| 研究概要 |
本研究の目的は、格子上のフェルミオン形式として厳密なカイラル対称性を持つオーバーラップフェルミオンを採用し、その特性を活かしつつ現象論において重要な物理量の格子計算を行うことであった。
本研究での主たる成果は、QCDのs-パラメーターとpseudo-南部-Goldstoneボソン質量の計算の成功である。これから始まるLHC実験では電弱相転移とヒッグス機構の解明が主なテーマであるが、実験結果だけで完全に解明することはできず、理論的予測と組み合わせて初めて意味のある結論を導くことができる。現在、多くの理論的予測が存在するが、ダイナミカル電弱相転移のシナリオは有力な候補の一つである。先に述べたS-パラメーターとpseudo-南部-Goldstoneボソン質量は、このシナリオに基づく模型の一つであるテクニカラー理論の実験的検証において最も有用な物理量であり、これらの量を強結合ゲージ理論(実際の計算ではNc=3, Nf=2の2-flavorQCD理論)において第一原理に基づく格子計算を行い、知られている実験値をよく再現する結果を得た意義は大きい。この成功の鍵となったのは、正しく「格子上の厳密なカイラル対称性」であり、これを持たない他の格子フェルミオン形式では実現し得ない成果である。従って、この成果をもって目的を十分果たしたと考えている。
同じフェルミオン形式は、その他の重要な非摂動量の計算にも応用された。その結果、中性K中間子混合の遷移振幅のパラメータ(BK)の決定、QCDの結合定数の決定、カイラル摂動論の収束性の研究、Nucleon-sigma termの決定等の成果を挙げ、様々な分野の現象論の進展に寄与したと考えている。
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