中性B中間子系におけるCPT対称性の破れは、素粒子実験Belleによって得られた素粒子反応を解析することによって探索できる。CPT対称性の破れはBelle測定器の中でも崩壊点検出器の測定精度に敏感であるため、各素粒子反応の測定の精度を精確に見積もることが必須である。本年度は、研究の準備として、Belle測定器の測定精度の評価に関する新しい手法を研究した。一般に検出器の応答は正規分布で近似されるが、現実的には主要な正規分布とそれ以外の複数の正規分布の線形結合となる。近似からはずれる効果を数学的に取り扱い、一部に経験則を導入することで新しい評価手法とした。この成果を用いて行われた最新のCP対称性の破れの測定の結果は査読論文誌に掲載された。また素粒子反応の統計を向上させるため、B中間子の崩壊点を再構成する方法に関する改良を研究した。長寿命のK^0_S中間子はB中間子の崩壊点から離れて崩壊するため、これまではK^0_S中間子の崩壊生成粒子を排除していたが、いったんK^0_S中間子の位置と運動量を再構成し、これを仮想的な粒子として崩壊点の再構成を実施した。これについては、統計的にわずかな改善は見られたが、K^0_S中間子の崩壊生成粒子の位置を高精度で測定できないことに由来して十分な改良とはならなかった。 さらに、Belle実験で取得したΥ(5S)粒子のB-B中間子系への崩壊に関して、時間に依存した方法によるΔΓ_s/Γ_sの測定の準備を実施した。時間に依存した方法によるΔΓ_s/Γ_sの測定は他に例がなく、また本研究のうち、測定器の測定精度の評価法に関する成果を直接に応用できる分野であるため、この測定はCPT対称性の破れの探索と合わせて推進する意義がある。本年度は、B^0_s→J/ψφの事象の再構成などを実施した。 また、廉価な家庭用PC7台を並列に接続し、Linuxによる研究環境の整備を行った。
|