衝突エネルギーが非常に大きい時のハドロン散乱に現れる「カラーグラス凝縮」と呼ばれる高密度グルオン状態の性質を、基礎理論である量子色力学(QCD)から理解するという目標のために、18年度は以下の事柄を行った。 18年度の具体的な目標として考えていた原子核・原子核衝突におけるカラーグラス凝縮の効果の「定量的」な評価は、その問題を扱う上で理論的枠組みの理解が不十分な点があることがわかり、より基礎的な問題である以下の2点について研究を行った。 1.当初の目的であった「原子核・原子核衝突」よりも(クォーク・グルオン・プラズマが生成されていない点で)より簡単な「陽子・原子核衝突」における様々な現象を理解するための理論的枠組みの理解と整備を行った。特に、中心度依存性(「中心衝突」から「かすり衝突」に至るまでの反応の変化)や、揺らぎの効果についての考察をした。これらは予備的な研究である。 2.より基礎的な問題として、カラーグラス凝縮の理論的枠組みが持つ「非平衡統計力学」との関係についての理解を深めた。具体的には、多重グルオン放出における平均場理論に相当する非線形発展方程式(Balitsky-Kovchegov方程式)と反応拡散系(Fisher-Kolmogorov-Petrovsky-Piscounov方程式)の物理との等価性が知られているが、この対応関係は揺らぎの効果を入れても成り立ち、平均場的描像が大幅に変更を受ける。「揺らぎの効果」による、方程式の解の振舞いを定性的に説明し、さらに定量的な評価もできるようになった。 また、これらに加えて、最近は重イオン衝突における熱平衡化の問題にも取り組んでいる。
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