衝突エネルギーが非常に大きい時のハドロン散乱に現れる「カラーグラス凝縮」と呼ばれる高密度グルオン状態の性質を、基礎理論である量子色力学(QCD)から理解するという目標のために、19年度は以下の事柄を行った。 重イオン衝突の物理において最重要課題として考えられているのは、カラーグラス凝縮で与えられる衝突の初期条件から、如何にして熱平衡状態であるクォーク・グルオン・プラズマへと時間発展していくかを明らかにすることである。これは、最終的な観測データにどのようにカラーグラス凝縮の効果が反映するかという問題とも関係する重要なものである。この問題について、カラーグラス凝縮の立場から自然に導入される手法を用いて解析をすることで、衝突直後のグルオンを記述するゲージ場に不安定性が存在し、それが熱平衡化への最初のステップを与えることを明らかにした。また、同時に不安定性を考慮する前のグルオン場のダイナミクスが、非常に簡単な模型を使って理解できることもわかった。これらは、重イオン衝突をカラーグラス凝縮から現象論的に記述する上で重要な結果である。 なお、当初の目的であった原子核・原子核衝突におけるカラーグラス凝縮の効果の「定量的」な評価については、上記のような問題を解決・理解しない限り信頼の出来る結果が得られないので、より基礎的な問題である「熱平衡化」の問題に取り組んだことになる。
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