研究課題
衝突エネルギーが非常に大きい時のハドロン散乱に現れる「カラーグラス凝縮」と呼ばれる高密度グルオン状態の性質を、基礎理論である量子色力学(QCD)、より正確にはそのグルオン部分を記述するSU(3)Yang-Mills理論から理解するという目標のために、平成20年度は以下の研究を行った。重イオン衝突の物理において最重要課題として考えられているのは、カラーグラス凝縮で与えられる衝突の初期条件から、如何にして熱平衡状態であるクォーク・グルオン・プラズマへと時間発展していくかを明らかにすることである(「熱平衡化」の問題)。これは、最終的な観測データにどのようにカラーグラス凝縮の効果が反映するかという問題とも関係する重要なものである。この問題について、19年度は、衝突直後のグルオンを記述するゲージ場に不安定性が存在し、それが熱平衡化への最初のステップを与えることを明らかにした。これは、重イオン衝突をカラーグラス凝縮から現象論的に記述する上で重要な結果である。20年度は、さらにその結果を、膨張の効果がない場合のゲージ場を考え、それが膨張のある場合と同じ不安定性を示すだけでなく、そのあとより強い不安定性が生ずることを明らかにした。なお、当初の目的であった原子核・原子核衝突におけるカラーグラス凝縮の効果の「定量的」な評価については、上記のような問題を解決・理解しない限り信頼の出来る結果が得られないので、より基礎的な問題である「熱平衡化」の問題に取り組んだことになる。
すべて 2009 2008
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
Indian Journal of Physics (掲載確定)
DESY proceedings, arXiv:0902.0377 [hep-ph] DESY-PROC-2009-01
ページ: 79-83
arXiv:0903.2930 [hep-ph] NPA (掲載確定)
Prog. Theor. Phys. Suppl. 174
ページ: 181-189