今年度は、昨年度に引き続いて可視光照射をしつつ高周波ESR測定を行うためのクライオスタットの作成を行った。可視光照射のため用いる光ファイバーをクライオスタットの試料付近まで導入し光照射下において、周波数75〜2000GHz、パルス磁場〜55Tの条件のもとでの強磁場高周波ESR測定が可能な装置を開発した。可視光源には発振波長632.8nn、出力10mVのヘリウムーネオンレーザーを用いた。この装置を用い、鉄スピンクロスオーバー錯体の光照射ESR測定を行った。試料が低スピン状態にある温度4.2Kにおいて可視光照射し、光誘起を起こしその状態でのESR信号の観測を試みた。大きな零磁場ギャップを持つと予想されるFe^<II>イオンのESR信号を観測するため、高周波730.5GHz、〜55Tの磁場範囲で測定を行ったが、残念ながら信号を観測することはできなかった。光照射によって高スピン状態に誘起されるのは、試料の表面付近にのみ限られるので有効スピン数が少なすぎ、今回開発した装置の感度内で信号を観測するには至らなかったのではないかと考えている。一方今年度はこれ以外に、ペロブスカイト型コバルト酸化物において新しいタイプのスピンクロスオーバー現象を見出した。Sr_<0.75>Y_<0.25>CoO_<3-δ>について強磁場磁化測定を行い磁場誘起によるスピンクロスオーバーを観測したが、我々の解析からこの現象は、強磁性的な内部磁揚の助けを借りて生じており、低スピンから高スピン状態への転移が強磁性を伴う興味深いものであることがわかった。
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