本研究は、中性子ビームを用いた微小領域分析を可能とするため、中性子光学の技術を活用した「マイクロ集束光学システム」を構築することを目的としている。平成18年度は、結像光学系である中性子マイクロ集束光学素子の開発に向けて、数値シミュレーションによる集束光学素子の設計および、素子を構成する材料として検討している非晶質フッ素樹脂の特性評価を行なった。 集束光学素子形状としては、大きな中性子透過率を実現することが必要であるためフレネル型とする。これにより実効的な素子の厚さを可能な限り低減することができ、さらにこの素子を積層することにより大きな屈折角を実現することができる。そのため、個々の素子はフィルム状であり、その表面には100μmから10μmの幅で中心から段階的に狭くなるようにノコギリ刃状の溝が作り込まれる。素子の厚さは50μm以下が適当であると考えられた。 次に、素子材料の中性子透過率評価の一環として、非晶質フッ素樹脂について熱中性子を利用した即発γ線分析による不純物濃度評価を行なった。その結果、樹脂を構成する元素である炭素・フッ素・酸素の他に水素と塩素が検出された。しかしながら、中性子透過率の低下に大きく寄与すると考えられた水素の混入量は30ppm以下であり、中性子光学素子の性能への影響は極めて小さいことが明らかになった。一方で、素材の分子構造による中性子の散乱が短波長中性子において顕著になることがわかり、集束光学系を構築する上では0.4nm以上の長波長の中性子を利用する必要があると考えられた。
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