本研究は、中性子ビームを用いた微小領域分析を可能とするため、中性子屈折光学の技術を活用した「マイクロ集束光学システム」を構築することを目的としている。平成19年度は、前年度に引き続き、結像光学系である中性子マイクロ集束用屈折光学素子の開発に向けて、数値シミュレーションによる集束光学素子の設計を進めるとともに、素子の製作を進めた。 集束光学素子形状は、高い中性子透過率を実現するためにフレネル型とし、単一素子の厚さを100μm以下まで薄肉化する。素子の材料としては、素子自体の薄片化が容易であるとともに、中性子の吸収断面積が小さく、原子配列に起因する散乱が小さい非晶質全フッ素化樹脂を用いる。このような素子を積層することにより、中性子の減衰を低減しながら大きな屈折角を実現し、強い集光能力を得る。本研究により開発する中性子集束光学系は、数μm以下の形状精度で素子を多数製作することが必要である。そのため、フッ素樹脂フィルムへの形状転写に基づく精密成形方法を新規に開発し、フレネル型中性子レンズを製作した。 作製したフッ素樹脂製中性子フレネル形状レンズを用いて、冷中性子に対する集束性能評価実験を行なった。このとき、レンズの積層数は50枚とした。その結果、中性子波長が約0.8nm以上の範囲において優れた集束性能を持つことを確認し、このフレネル形状中性子レンズを使用することでビーム強度が最大約30倍まで増加することを確認した。
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