1. d電子系における異常ホール効果及びスピンホール効果の起源 : 多くの遷移金属化合物は、半導体や単純金属と比較してけた外れに大きな異常ホール効果及びスピンホール効果を示すが、その起源はこれまで明らかではなかった。本研究ではd原子軌道の軌道自由度に着目し、多軌道強束縛模型を解析した。その結果、伝導電子が軌道角運動量に由来する一種のAharonov-Bohm位相を獲得するため、顕著なスピンホール効果や異常ホール効果が発現することを明らかにした。さらに我々は、ブロッホ波動関数の極率に関係する内因性ホール効果と、不純物散乱に由来する外因性ホール効果(スキュー散乱およびサイドジャンプ)の両方を解析し、軌道自由度の重要性をあきらかにした。 2. 非自明な磁気構造に由来する新規異常ホール効果の理論 : フラストレート系では、非自明な磁気秩序の出現に伴い、しばしば非従来型の異常ホール効果が出現する。我々は2tg軌道強束縛模型に基づきこの問題を解析した。一般に磁気秩序がnon-collinearであるとき、「軌道ベリー位相」を有効磁場とする非従来型の異常ホール効果が出現し、Nd2Mo207の実験結果を良く再現することがわかった。本機構はパイロクロア化合物にとどまらず、様々な多軌道フラストレート系における実現が期待される。
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