有限ハルデン鎖Y2BaNi1-sMgx05の電子スピン共鳴(ESR)及び核磁気共鳴(NMR)測定を進めると共に、極低温NMR実験を行うための、稀釈冷凍機内で角度制御可能なプローブの開発を行った。これにより、来年度以降、有限はハルデン鎖系で見られる有限鎖間の相関による秩序状態のNMRによる詳細な研究が可能になった。しかし、Y2BaNi1-xMgx05のギャップをつぶす100テスラ級のESR・NMR測定は未だ困難なので、新たにZnドープされた2次元直交ダイマー系SrCu2(BO3)2および、2次元スピンギャップ系(CuCl)LaNb207、擬3角格子磁性体Cs2CuCl4、有機磁性体F2PNNNOを候補物質として挙げ、試料製作及び予備実験を開始した。特にSrCu2(BO3)2に関しては、今年度において2GPの高圧下で新たな量子相が発見され、その物理的起源を明らかにするために、ZnドープされたSrCu2(BO3)2試料を高圧力下で測定することを重要課題に選定し、試料の準備と高圧用圧力カプセルの準備を優先的に行った。また、対象を低次元磁性体だけに限らず、近年次々と新物質が開発されている3時限フラストレーション系においても新規な量子相の探索を行った。超伝導体β型パイロクロア酸化物KOs206においては、Osは局在スピン密度をほとんど持たず、この系に見られる異常物性はスピンよりもむしろファノンによるものであることを明らかにした。金属絶縁転移をともなうパイロクロア酸化物物質群の測定も行い、Hg2Ru207では金属絶縁転移にともない、スピンの複雑な磁気秩序状態が低温で実現していることをNMRで明らかにした。
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