本研究は、アクセプター機能を持つ低分子をドープした伝導性ポリマー(ポリビニルカルバゾール、PVCz)を対象とし、光励起で導入される電荷分離状熊についてスピン間の相関に着目し、特にスピン間の距離をバルスESR法を用いて解析しようとするものである。初年度に引き続き、PVCzにTCNQ(テトラシアノキノジメタン)あるいはC_<60>(フラーレン)をドープした試料について、室温から10Kにわたって、定常(CW)ESR測定、パルスESR測定を実施し、スピン間距離測定法(DEER法)による測定を試みた。 低温(10〜60K)においてPVCz-TCNQで450〜650nmにわたる電荷移動吸収帯を光励起すると、新たなESR信号が得られ、パルスESR法でもg=1.997にエコー信号が得られた。2パルスエコー法から見積もったスピン緩和時間(T_2)は2μs程度で、緩和時間の観点からはDEER法が適用可能な系であったが、電子と正孔の信号が分解できない状況であり、両者を区別して励起・観測することができず、有意な結果が得られなかった。PVCz-C_<60>ではアクセプター準位を光励起すると、g=2.002のESR信号に加え、g=1.998に新たなESR信号が得られた。それぞれT_2は3.0μs、3.4μsと見積もられた。これらを電子、正孔由来の信号と見なし、DEER法を実施したが、有意な結果は得られなかった。通常スピンラベル法ではg値の差が0.74%程度のスピンを選択しそれらの相互作用を得るが、PVCz-C_<60>の場合この差は0.20%にすぎず、選択的マイクロ波パルスを用いても十分分解できなかった可能性がある。
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