研究概要 |
本研究は、銅酸化物系の高温超伝導体を対象とし、低エネルギー放射光による角度分解光電子分光の高いエネルギーで運動量分解能とバンド選択性を利用して、超伝導相および常伝導相の電子構造を精密に決定することで、電子が受ける相互作用のエネルギー/運動量/温度/キャリヤー・ドープ量依存性を詳細に明らかにすることを目的としている。本年度は、以下の通り実施した。 (1)低エネルギー角度分解法においての高い実験精度を発揮するために、試料の冷却と、試料方位角・傾斜角の安定性を両立させた試料ホルダーを開発・製作した。 (2)低エネルギー角度分解法のバンド選択性を活かすために、二重層Bi2212系、単層Bi2201系、LSCO系のそれぞれについて、光電子スペクトルの励起光エネルギー依存性を広い波数空間に渡って決定した。エネルギーhυ=7.8eVの励起光がBi2201の電子状態観測に適していること、hυ=.7,0eVがBi2212の反結合バンドの選択的観測に適していること、hυ=8.5eVがBi2212の結合・反結合バンドを全波数空間で同時に観測するのに適していることを明らかにした。 (3)Bi2201系のバルク単結晶試料について、低エネルギー放射光角度分解光電子分光を行い、ギャップの節の方向のバンド分散のエネルギー依存性と、準粒子構造の温度依存性を精密に決定した。既に報告されている約70meVの構造に加えて、新しく約40meVと約6meVに分散の折れ曲がり構造が観測された。電子に作用する多体効果は、40meVおよび6meVという特徴的なエネルギー・スケールを持つことが明らかにされた。 (4)パルス・レーザー堆積(PLD)装置を整備し、YBCO系薄膜の試作を行った。今後の課題は、成長条件を最適化して結晶度を向上させることである。
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