デラフォサイト型銅酸化物は、Cu面とMO_2面が交互に積層した層状酸化物であり、-Cu-O-M-O-・・・で繰り返される全ての二次元面が三角格子を形成している。Mイオンが反強磁性相関を有するスピンを持つ磁性イオンの場合、局在スピンが幾何学的フラストレーションを内包する三角格子上に並ぶ様になる。その三角格子上に並ぶ局在スピンと、層状構造に由来した強い異方性を示す電気伝導との結合の問題は、銅酸化物高温超伝導などの舞台を連想させ、非常に興味深い。本研究では、デラフォサイト型銅酸化物CuMO_2(M:三価の陽イオン)に、元素置換・元素欠損によりキャリアドーピングを施した新物質を合成し、多様な環境下においてその物質の基礎物性を評価することにより、巨大熱電応答や新たな物性を見出すことを目的としている。 本年度は、主に2つの側面から研究を推進した。一つは、既に見出していたCuCr_<1-x>Mg_xO_2の各種物性の元素置換効果の詳細な検討である。特に磁気転移近傍においては、元素置換により磁化の際立った増大があり、磁気抵抗効果の出現など輸送特性と相関がある様に見える。これは、磁場下での熱特性からも言え、この系におけるスピン自由度と電荷自由度の相関を示唆している。もう一つは、Mサイト位置に様々な元素を持ってきた物質の合成とその元素置換により、新たな電気伝導性を示す物質の開発とその構造に起因した新物性の探索である。特に、前述のCr^<3+>サイトをMg^<2+>で置換した物質との比較対照として、三価の磁性・非磁性イオンを置換した場合に、各種基礎物性に対してどの様な元素置換効果があるのかを検討した。その結果、現在まで合成を試みた物質の中においては、CuCr_<1-x>Mg_xO_2が特異的に元素置換効果が大ききいことが判明した。今後は、より詳細な構造解析、多重極限環境下での基礎物性評価を実施することにより、これらのデラフォサイト型銅酸化物CuMO_2における元素置換効果のさらなる検討を行なっていく予定である。
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