研究概要 |
充填スクッテルダイト化合物は多彩な物性を示す。その中で,ほとんどのNd(F^3)系化合物は強磁性を示す。しかし,近藤効果を示唆する電気抵抗のlogT的な増大がNdFe4P_<12>(T_c=2K)にて報告されており,Ndの持つf電子は遍歴的な振る舞いをしている可能性が示唆されていた。 我々はNdFe_4P_<12>についてf電子の電子状態,及び伝導電子との混成効果を,核磁気共鳴(NMR)を用いて微視的な立場から研究を行った。 粉末試料のNMRを行った結果,NdFe_4P_<12>の磁化率は異方的であり,磁化容易軸は[100]方向であることを明らかにした。また,ナイトシフトはキュリー・ワイス則に従い低温に向けて増加することから,Ndのf電子は高温領域だけではなく,低温領域でも局在的であることを明らかにした。 さらに動的な性質を調べるために核スピン-格子緩和時間T_1の測定を行った。局在的なf電子による緩和が支配的である場合T_1=一定となることが期待される。しかしながら降温に従いT_1の増大が観測された。また,その振る舞いは磁場増加により押さえられることを明らかにした。これらの結果からNdFe_4P_<12>は他の重希土類充填スクッテルダイトとは違い,顕著なスピン揺らぎが存在することが明らかになった。磁場の増大によりスピン揺らぎが押さえられることから反強磁性スピン揺らぎがT_1増大の主要な原因だと考えられる。NdFe_4P_<12>は2K以下で強磁性転移を示すことから,強磁性揺らぎと反強磁性揺らぎの両方が存在し競合していると考えられる。これらの結果より,約30K以下でみられる電気抵抗の増大はf電子の遍歴性というよりも,複雑な磁気揺らぎによる伝導電子の散乱によって引き起こされていると考えられる。
|