研究概要 |
硬X線を用いた共鳴非弾性X線散乱(Resonant Inelastic X-ray Scattering, RIXS)は、SPring-8などの高輝度放射光を用いることで可能となった新しい分光法である。入射X線により物質中の内殻電子を共鳴励起し、その励起状態が緩和する過程で放出されるX線を分光するものであり、その中間状態で内殻正孔との相互作用によって価電子が励起される。この手法の最大の特徴は、用いるX線の波長が結晶の格子定数と同程度であることから、励起の運動量依存性が観測できるという点にある。我々は、このRIXSを用いて、モット絶縁体およびそれに電荷ドープされた系において、クーロン相互作用が電子状態に与える効果を運動量依存性まで含めて調べることを目的として研究を行っている。 平成18年度は、梯子格子銅酸化物の研究としで、(La,Sr,Ca)_<14>Cu_<24>O_<41>の銅K吸収端におけるRIXS実験を行った。梯子格子が二次元正方格子(銅酸化物高温超伝導体のCuO_2面)と対照的な点として、(1)モットギャップを越える励起の分散関係が、ホールドープ量に鈍感であること、(2)ホールをドープすることにより現れるZhang-Riceバンド内でのバンド内励起の運動量依存性が小さいこと、を明らかにした。(Phys.Rev.Bに投稿中。)さらに、銅酸化物高温超伝導体における磁性不純物置換効果の研究として、La_2Cu_<1-x>Ni_xO_4のNiのK吸収端でのRIXSによる研究を開始した。 エネルギー分解能向上のための分光アナライザーの開発については、平成18年度に結晶の切断まで終えており、19年度に、エッチング、凹面基板への貼付けを行う予定である。
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