1980年代にJonesによって結び目の新しい不変量が提出されて以降、さまざまな結び目・3次元多様体の不変量が提出されてきた。これらは主に量子群を用いて構成されるため、一般に量子不変量と呼ばれ、従来の(古典的な)不変量とは区別される。一連の量子不変量については、未だに幾何学的なはっきりとした解釈が与えられていない。この問題に取り組み、物理への応用を探るのが本研究の目的である。 まず本年度は、3次元多様体の量子不変量のうちWitten-Reshetikhin-Turaev(WRT)不変量の解析を行った。WRT不変量は、1990年頃にWittenによりChern-Simons経路積分を用いて構成され、後にReshetikhinとTuraevによって数学的に厳密な形で定式化されたものである。また多様体については、ポアンカレ・ホモロジー球に代表されるザイフェルト多様体をとりあげた。これは、LawrenceとZagierによる、ポアンカレ・ホモロジー球のSU(2)WRT不変量が保型形式のEichler積分の極限値と一致するとの2000年頃の結果の拡張を試みるためである。その結果、ある種のザイフェルト多様体についても、やはりSU(2)WRT不変量と半整数重みを持つ保型形式との関連性が成立することが明らかとなった。また、ここで現れた保型形式は、多様体の基本群と密接に関係しているだけでなく、数学史上に名高いRamanujanの擬テータ関数とも厳密に対応関係があることを指摘した。
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