ジョーンズ多項式やウィッテン・レシェティキン・トゥラエフ(WRT)不変量をはじめとする量子不変量の研究は1980年代以降活発に行われてきたが、その幾何学的な意味づけは未だに理解されていない。本年度は、量子ダイログ関数を用いて(カスプを持つ)3次元多様体の分配関数を新たに定義し、古典極限においてノイマン・ザギエ(NZ)関数を与えることを示した。NZ関数は、A多項式、双曲体積およびチャーン・サイモンズ不変量などの幾何学的情報を豊富に含んだ関数であり、ここで定義された分配関数はNZ関数の量子化と見なせることになる。この事実は、量子ダイログ関数が5項間関係式を満たし、3次元双曲空間における理想四面体と解釈できることに起因する。今後、分配関数とWRT不変量、ジョーンズ多項式との関係をより詳しく調べることは興味深い。 量子不変量の幾何学的解釈へ向けてのもう一つの重要な鍵となるのが保型形式である。本年度は昨年度に引き続き、ある一連のブリースコーン型ホモロジー球についてSU(2)WRT不変量を詳細に解析して、保型形式との関連性を調べた。その結果、不変量が保型形式のアイヒラー積分と密接な関連があることを見いだし、その漸近的なふるまいから(高階の)擬テータ関数と見なせることを明らかにした。さらに、量子不変量についての結果を用いて、(高階の)擬テータ関数に関する数々の新しい公式を導出することに成功した。擬テータ関数とは数学史上に名高い「ハーディーに宛てたラマヌジャンの最後の手紙」に現れるもので、解析的数論の研究者によっても近年、活発に研究されており、本研究成果共々、物理への応用を考察する上で非常に有益であろう。
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