量子不変量の研究は1990年頃に始まり、その後、数学・物理両サイドから活発な研究が行われてきた。本研究の目的は、量子不変量の幾何学的な解釈を探るとともに、物理的な応用を探ることになった。幾何学的な解釈については、前年度までの2年間において、著しい成果を上げた。とくに、SU(2)量子不変量であるJones多項式やWRT不変量の漸近解析を詳細に行い、保型形式との関連性を明らかにし、さまざまな古典的位相不変量の保型形式からの解釈を与えてきた。 研究計画最終年度にあたり、今まで得た量子不変量の知見を実際の物理系へ生かすことを探った。位相的性質が大変重要視される物理系に量子ホール系があげられる。特に、あるランダウ準位占有率で記述される量子ホール系の場合、準粒子が非アーベル型の性質を示すことが指摘されていた。この非アーベル性を耐障害性を持つ量子情報理論に用いようとするKitaevの提唱が量子情報分野で注目を集めている。量子計算を効率よく行うためには、エンタングルメントをうまく活用する必要があるが、その指標のひとつにエンタングルメント・エントロピーがある。一般にはこのエントロピーを計算することは非常に困難であるが、我々は量子不変量の手法を用いて、非アーベル性をもつ量子ホール系においてエントロピーを厳密に計算することに成功した。その結果、準粒子の量子次元と呼ばれる量がエントロピーに現れることを明らかにした。
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