液体と固体の中間的な存在である塑性体に着目し、自由表面をもつ塑性体が駆動力を受けて非定常な運動をおこなう場合についての理論的研究に取り組んだ。これにより、ペーストなどが駆動力を受けて流動する場合に示す特徴的な実験事実を理論的に理解することを目指している。 本年度は、斜面上を重力で駆動される塑性体の流動(斜面流)に着目して、理論的な解析をおこなった。まず、緩和時間描像による塑性の定式化と微分幾何学的な手法を組み合わせて、幾何学的非線形性を取り入れたMaxwell型の等方的弾塑性モデルを構築した。次に、流れの方向を一方向に限定する条件のもとで、自由表面をもち一定の外力によって駆動される塑性流動の解析をおこない、次のことを見いだした: ●剪断流によって塑性体内部に法線応力差(流れに平行な方向の張力)が発生する。 ●流れの停止とともに張力が凍結され、塑性体内部に残留する(残留応力の発生)。 この結果は、加振した炭酸カルシウムペーストの乾燥破壊実験において中原氏と松尾氏によって発見された履歴依存性に対する理論的説明となり得る。加振方向に流れが発生し、これによる剪断流が張力を作り出すとすれば、乾燥破壊による亀裂は加振方向に垂直に生じやすくなるはずであるが、これはまさに炭酸カルシウムペーストで実際に観察された結果と一致するからだ。結果の公表については2007年5月を目標に投稿準備中である。 他方、一方向流れの制限を撤廃すること(これはほぼ必然的に自由表面の変形を伴う)を念頭におき、Newton流体の液膜の変分法的な定式化や近似理論に取り組んだ。ただし、本年度においては、これらのNewton流体の液膜についての知見を塑性体の流れに具体的に応用するまでには至らなかった。
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