液体と固体の中間的な存在である塑性体に着目し、自由表面をもつ塑性体が駆動力を受けておこなう非定常な運動の理論的研究に取り組んだ。これによりペーストや粉体などソフトマターの流動に見られる特徴的な実験事実を理解することを目指している。 昨年度においては、まず非線形弾性論に応力緩和を組み込んだ等方的弾塑性モデルを構築し、続いて一定の外力で駆動される一定厚さの塑性流体の非定常な流動についての理論解析から、剪断流によって張力が発生すること、およびこの張力が塑性体内部に残留することを示した。これは、ペーストでの実験事実(中原明生氏らによって発見された乾燥破壊の記憶効果=「中原効果」の説明となり得る重要な知見である。 昨年度の解析は、単純化のための制約をいくつか含んでいたが、本年度は一部の制約をゆるめた場合について検討をおこなった。まず振動外力に対する計算をおこない、やはり張力が発生することを示した。さらに空間次元を2次元でなく3次元に拡張した理論解析をおこない、中原氏らの実験に対応する異方的な応力状態が確かに存在することを示した。そのほか液膜厚さが一定であるという制約を除いた解析も試みたが、これは年度内の完成には至らなかった。ただし今回の研究期間中に得られた成果を発展させることにより、まもなく何らかの結果に到達できるものと期待できる。 また、主に斜面流に関して得られた結果を整理して数学的な点での説明を補い、粉体における静力学的不定性との比較検討を追加したものを論文としてまとめた。この論文は、Physical Review Eに受理された。 12月には、上記の中原氏らを講師として招待し、セミナーおよびミニ研究会を開催した。ミ二研究会では、実験・第一原理計算・現象論的モデルなど多様なアプローチが報告され、また討論も研究分野全体の将釆的進展に寄与しうる有意義なものであった。
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