スピンパイエルス物質CuGeO3で観測される不純物誘起反強磁性秩序は、不純物置換により置換サイトの隣に誘起した有効スピンがシングレット対を介して互いに相互作用することにより生じると理解されている。しかしながら、CuGeO3のGe原子にSi原子を置換すると、有効スピンが不純物近傍には誘起されないことが実験的に観測されている。このような有効スピンが誘起する場所を理解するためには、格子の自由度と結合した量子スピン系を解析する必要がある。本研究では、反強磁性ハイゼンベルグ鎖を二次元的に結合した模型において、格子の自由度を鎖内で古典的に考慮し、サイト希釈により基底状態がどのように変化するかを量子モンテカルロ法を用いて調べた。希釈されていない場合、鎖間相互作用が弱い領域で、格子が交互に歪んだ基底状態が実現する。これは、歪むと格子のエネルギーが増加するが、強い量子揺らぎのためにそれ以上にスピン系のエネルギーが減少するためである。この状態にある系をサイト希釈すると、次の2つの状態が実現することが分かった。つまり、希釈されていない時の歪み方を維持した状態(A状態)と希釈サイト近くのスピン対が必ず強く結合する状態(B状態)である。A状態は、格子エネルギーの効果が小さく、鎖間相互作用が大きい領域で実現し、有効スピンは希釈サイトの隣に誘起される。一方、B状態は、格子エネルギーの効果が大きく、鎖間相互作用が小さい領域で実現し、有効スピンは希釈サイトの近くでは誘起せず、希釈サイトの間に誘起している。CuGeO3で観測された状態はB状態に相当していることが分かる。さらに、希釈濃度を増加させると、B状態の領域が広がることが分かった。CuGeO3より鎖間相互作用が強い物質の低希釈濃度領域で、A状態が実験的に観測されることが期待される。
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