非平衡定常状態を統計力学的視点から研究した。特に、定常状態における微視的状態の定常分布の新しい表現として、(微視的状態に関連付けられた)エントロピー生成の組み合わせによって、理論的示唆に富む表現の構築に成功することが出来た。この成果の適用例としては、例えば温度が異なる熱浴が系に接した状況で、系内を流れる熱流によって非平衡へと駆動された非平衡定常状態や、電場によって電流が流れている定常状態など、非常に多くの非平衡定常状態を考えることが出来る。本研究によって得られた表式は、これまで既に良く知られた線形応答領域での分布表式を(当然ながら)包含しつつ、本質的な非平衡領域である非線形領域にまで踏み込む画期的なものである。また、本研究で得られた表式の持つ特徴として、分布表式がモデルの詳細や恣意的な設定によらない一般性を持つこと、したがって広い適用範囲を持つこと、過剰エントロピー生成という熱を測定することによって原理的には観測可能な量と分布表式を結びつけるものであること、などが挙げられる。ここで出てくる過剰量の測定という視点は、昨年度までの具体的モデル研究の積み上げによって、その有用性を見出すことが出来たことも指摘しておきたい。 これらの結果は、スペインにおける研究会、国内の学会等で発表され、多くの有益な議論に結びつくことが出来た。また、物理系学術誌PHYSICAL REVIEW LETTERS誌において出版され公表された。
|