統計力学的観点から非平衡定常状態の研究を行った。特に、昨年度までの成果として得ることが出来た非平衡定常系における定常分布の新しい表式を梃子として、定常状態熱力学を形成する巨視的物理量の探索を行った。熱平衡状態において重要な状態量であるエントロピーは、クラウジウス関係式として知られる関係式をもって熱の測定量から決めることが出来る。我々は、このエントロピーの非平衡定常状態への拡張が、熱測定量の自然な拡張によって可能であることを発見した。この新しい関係式を拡張クラウジウス関係式と呼ぶ。 実に興味深いことに、この拡張クラウジウス関係式によって非平衡定常領域にまで拡張されたエントロピー(以下、非平衡エントロピー)は、微視的な非平衡定常分布の規格化因子として登場することが判った。 さらに、熱平衡状態におけるエントロピーにはシャノンエントロピーという微視的表式が存在していることが知られているが、これに対応する形で、我々の非平衡エントロピーには、対称化シャノンエントロピーという微視的表現が存在していることを発見した。面白いことには、系に特殊な条件が課されない場合、一般にこれら二つの微視的表現の差違は非平衡度の2次から明確に現れる。非平衡状態における新しい我々のエントロピーが、実際に有用であるか否かを吟味するには、まだ地道な研究が必要であるが、今後、この方向での発展があることを期待している。
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