今年度は、2003年の研究論文で発表した極限準位間隔分布の公式を高次の相関モーメントを含む一般的な公式に書き換え、次数に対して無限和をとることにより、2点相関関数などの長距離スペクトル統計の新しい分布関数を導出した。得られた分布関数と平成18年度の研究計画で導出した理論公式と比較し、両者の関係をつなぐ新しい理論を構築した。両者の関係を結ぶパラメータ関数の関係式を詳しく分析したところ、ポアソン統計が得られるケース、ポアソン統計から外れるケース、サポボアソン統計が得られるケースに対する長距離スペクトル統計の振る舞いを明らかにすることに成功した。これら3つのケースのうち後者の2つのケースは本研究代表者らが2003年の研究論文で短距離スペクトル統計の分析の際に報じたケースと同一であり、後者の2つのケースが長距離スペクトル統計においても観測可能であることが初めて明らかになった。 本年度の研究により、強い準位集積を示す可積分量子系の長距離スペクトル統計の性質について、かなりのことが明らかにできた。特に、量子系の分析においてよく用いられる準位間隔分布などの短距離スペクトル統計と、今回の研究対象としている長距離スペクトル統計の間の対応関係に対する理解が初めて明らかになったことは、大きな成果といえる。今後はコンピュータシミュレーションを行い、理論が示す新しい法則の存在が現実系で確認できるかどうか検証作業をおこなってみる予定である。
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