研究概要 |
細胞膜骨格や細胞外基質を構成する生体高分子のからみ合ったネットワークの粘弾性特性のモデル化の端緒として、剛直性を持つ線状高分子の粗視化分子動力学シミュレーション(仏エコールノルマルシュペリウールリヨン校、RalfEveraers氏らとの共同研究)を行なった。平衡状態における高分子バネの両端点を固定した後、自然長をゼロにすることで鎖の長さを最小化し、からみ合いの古典的理論でいうところの原始経路に対応するものを可視化した。高分子の剛直性や濃度をさまざまに変えて原始経路のトポロジーを解析することにより、次のことが明らかになった。 (1)十分よくからみあった高分子系のプラトー弾性率は、持続長およびモノマー数密度と組み合わせて無次元化することで単一のスケーリング曲線を描く。 (2)このスケーリング曲線は、かたい高分子(実験的にはf-アクチン、fd-ファージなどの生体高分子)と、やわらかい高分子(実験的にはポリダイエニン、ポリオレフィン、ポリアクリレートなどの合成高分子)を記述する2つのべき乗則と、その間のクロスオーバーからなる。 (3)かたい高分子もやわらかい高分子も、その原始経路をかたい高分子系とみなして従来の粘弾性理論を適用することによって、そのプラトー弾性率を統一的に記述することができ、その結果はシミュレーションで得られたスケーリング曲線および既存の実験結果とよく一致する。 これらの結果は、さまざまなかたさや濃度を持つ生体高分子系の力学特性を統一的に理解する可能性を開くものと考えられる (論文はN. Uchida, G. Grest&R. Everaers, Nature Materialsに投稿中)。
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