本申請研究では、球状マイクロエマルション(ME)に高分子を閉じ込める複合系において、閉じ込めた高分子の会合状態を制御することで発現する液晶-ゲル転移の詳細を明らかにすることを目的とした。平成18年度では小角中性子散乱(SANS)実験より、膜の棒-ネットワーク転移において約26℃以下で安定なネットワーク構造が形成されている事が明らかになった。そこで平成19年度では、棒-ネットワーク転移を巨視的な観点から追うために線形領域での振動ずりによる粘弾性測定を行った。線形領域における振動ずりでの粘弾性測定において、パーコレーション転移の定義によるゲル化点では、貯蔵弾性率G'と損失弾性率G''が角周波数ωに対してG'(ω)^∝G''(ω)^∝ω^Δとなることが報告されている。実際のゼラチン水溶液のΔの値は試料の成分や濃度によってばらつきがあるが、Δ=0.46〜0.81を示すと報告されており、MEにゼラチンを閉じ込めた系でのΔを求めたところ、29℃でG'とG''のべきが等しくなり、ΔはΔ≒0.64で、ゼラチン水溶液の値と同等の値になった。この結果、ME+ゼラチン系での系全体のゾル-ゲル転移が29℃で始まる事がわかった。また前年のSANS実験結果より完全に膜構造が安定化するのが26℃であったため、29℃以下では内包されたゼラチンの架橋が進行し、膜構造に影響を与えていると考えられる。一方ゼラチン水溶液のゼラチンの架橋は37℃以下で起こる事がわかっている。これら各階層での転移温度(ゾル-ゲル、棒-ネットワーク)の結果を併せて、閉じ込められたゼラチンの架橋が、マイクロエマルション同士の衝突による動的なパーコレーションをピン留めする役割を果たす事で、系全体にソルーゲル転移および膜の棒-ネットワーク転移を引き起こしていると考察した。
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