光を用いた化学物質の分解は基礎科学のみならず医療・産業分野においても重要な研究テーマであり、光分解の効率は、こと実用面においてコストパフォーマンスに直結する重要な要素である。近年では分解効率を上げるために時間・周波数が制御された(チャープされた)レーザーを用いる方法(量子制御)が提唱され研究が進んできた。この量子制御による分解の効率は、通常の光を用いる分解よりも、10^9〜10^<10>倍高くなることが期待される。しかし、医療・産業分野への実用化はもちろん、中赤外領域においては実験的実証もない。 そこで、本研究課題では、現有するエネルギー回収型超伝導リニアック(ERL)からの自由電子レーザー(FEL)を用いて、波長20μm程度の中赤外領域における量子制御を用いた多原子分子解離の実験的実証を行なう。特に本年度は周波数分解光ゲート法(FROG)によるパルス計測に重点をおいた。 チャープパルスの計測は加速器室から離れた実験室で行った。このため光を導くための真空輸送路を構築した。輸送効率は大気開放状態で約30%、真空状態で70%であった。ただし、真空状態に関しては不十分で、これは光輸送路を改良することで真空度が改善され、さらに輸送効率が上がると見られる。これに関しては次年度にも引き続き改良を行なう。 また、本年度はおもに時間・周波数相関計測のためのFROG装置の開発を行い、最初のパルス計測を行なった。計測されたパルス幅は1.2ps(FWHM)で、これは比較のために計測したSHG-自己相関の結果とよく一致した。一方周波数領域での位相変化は単純な2次関数(up-またはdown-chirp)ではない変化をしているという新たな知見を得られた。
|