光を用いた化学物質の分解は基礎科学のみならず医療・産業分野においても重要な研究テーマであり、光分解の効率は、実用面においてコストパフォーマンスに直結する重要な要素である。近年では分解効率を上げるためにチャープされたレーザーを用いる方法(量子制御)が提唱され研究が進んできた。本研究課題では、エネルギー回収型超伝導リニアック(ERL)からの自由電子レーザー(FEL)を用いて、波長20μm程度の中赤外領域におけるチャープされた光を周波数分解光ゲート法(FROG)により測定し、量子制御を用いた多原子分子解離への有用性を検討した。 FELのパルス形状とチャープは共振器長に依存する。本研究では特に、最も高い出力を得られる完全同期長付近での計測を詳細に行なった。この完全同期長において、計測されたパルスの時間幅は0.6psで、これは以前に行なったSHG自己相関の計測結果から予測される値と一致するとともに、FELが量子制御に必要な短パルスであることが明確になった。また、チャープに関しては、周波数領域において三次分散による周波数位相の変化が顕著に観測された。これは、一般のレーザーと異なり、レーザー媒質に相当する電子とFELの光が共振器内で、その相対位置が徐々に変化していくことに起因している。この三次分散を生むERL-FEL特有のプロセスは、FEL方程式を逐次的に解くシミュレーションプログラムでも再現された。 こうした三次分散のチャープパルスを多原子分子の解離に使う研究として、チャープの負号を変えて、特定の結合だけを効率的に解離させることに成功した例も報告されており、こうしたFELの三次分散をもつチャープパルスも多原子分子解離に有用であるといえる。
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