本研究では、速度数m/s以上の放出物の速度分布を室内実験から明らかにすることを目的としている。18年度は、放出物の総量(質量)と衝突点からの距離および弾丸衝突方向に対する方位角との関係を調べるために、クレーター形成過程における掘削領域の直接観測を行った。標的物質に対して垂直にシート状レーザー(ダイオードレーザー15mW)を照射し、この状態で衝突実験を行った。高速ビデオカメラを用いて、レーザー光の時間変化を追うことで、クレーター穴の直径および深さの時間発展を調べた。その結果、(1)過渡クレーターの形成後すぐにクレーター壁面とリム部分の崩壊が起こり、クレーター直径が増加することがわかった。つまり、クレーター直径に対するスケーリング則を考える上では、過渡クレーター形成過程と崩壊過程の両方について考慮する必要がある事が分かった。また、(2)形成過程の初期段階ではクレーター直径は時間に対してベキ乗則で増加するが、後半段階ではこのベキ乗則からずれることがわかった。過去の研究では、クレーター形成のモデルとして、単純なベキ乗則モデルが提案されてきた。しかし、このベキ乗からのずれが観測される後半段階は、調べられていなかった。つまり過渡クレーター形成過程でのクレーター直径の時間発展は、単純なベキ乗関係式では記述出来ないことを意味する。そこで、本結果の観測結果を説明するために、Z-モデル(流体近似を用いた掘削流モデル)を基にして、クレーター直径の時間発展式を導出した。このモデル式を様々な条件での実験結果に対して当てはめ、妥当性について検証を行った。その結果、この新しいモデル式は、クレーター直径の時間発展をよく再現することが分かった。この新しいモデル式を用いて、放出物の総量(質量)と衝突点からの距離の関係式の推定を行った。
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