本研究では、衝突クレーター形成過程における高速放出物(放出速度数m/s以上)の質量-速度分布を室内実験から明らかにすることを目的としている。19年度は、放出速度と衝突点からの距離の関係について実験的に調べた。一段式ガス銃を用いて弾丸(ポリカーボネイド)を速度50-330m/sに加速し、ソーダライムガラスビーズに衝突させた。ガラスビーズを入れた容器にスリットがついた金属板をかぶせ、スリットから放出される放出物の速度を高速ビデオカメラを用いて測定した。その結果、放出速度は距離に対してベキ乗関係で減衰し、そのベキ指数は約-2乗であることが分かった。次に18年度に測定した放出物の総量と衝突点からの距離の関係式についての実験データと、今回取得したデータを組み合わせて、最終的に質量-速度分布を決定した。その結果、速度数m/s以上の質量-速度分布は、放出速度に対し単純なべキ分布に従うことが分かった。過去の研究では速度数m/s以上ではべキ乗からずれると予想されていたが、本研究により、数10m/sの放出物もベキ乗に従うことが分かった。この事は、実際の天体衝突において、多量の放出物がクレーターから遠方まで到達しうるということを意味し、天体表層進化において衝突による表層物質の再分配・混合は、従来考えられてきたよりも高い割合で起こりうる事も意味する。また、小天体(彗星や小惑星)に衝突が起こった場合、脱出する衝突放出物(隕石や惑星間塵の起源になりうる)は、従来考えられてきた推定量よりも数桁多くなりうるということを明らかにした。
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