本年度は、上部マントルの主要構成鉱物であるカンラン石、ウオズリアイト、リングウッダイトの電気伝導度への水の影響に関する研究を行った。今まで報告されてきたそれらの鉱物の電気伝導道は地球電磁気学的な観測結果に合わないだけでなく、主要な電気伝導メカニズムであるプロトン電動とホッピング電動の区別がなされてこなかった。我々は、多様な水の量を含むサンプルの電気伝導度を低温から高温までの幅広い温度領域で測定することにより、2つのメカニズムを分離することに成功した。電気伝導度測定は、それぞれの鉱物が安定な圧力条件のもとで行われた。出発物質にはオリビンの単結晶、またはサンカルロスオリビンのパウダーを用いた。含水資料に関しては、測定実験前に一度合成した資料を用いた。含水量はFTIRのスペクトルから計算された。カンラン石の測定は単結晶、他の高圧鉱物は多結晶の電気伝導度測定を行った。比較的無水の試料に関して、電気伝導度の絶対値は、カンラン石、ウオズリアイト、リングウッダイトの順に上昇する。いずれの鉱物も電気伝導度は含水量の増加に伴い、上昇する傾向がみられた。含水量の増加によって、活性化エネルギーは減少し、高温では電気伝導度に対する水の寄与は小さくなることが確認された。カンラン石の単結晶は各結晶軸ごとに含水と比較的無水のサンプルでともに、アセノスフェア上部の温度圧力条件では、異方性が小さいという結果が得られた。このことから、東太平洋中央海嶺のアセノスフェアに観測された異方性の強い高電気伝導度異常の地域は、含水カンラン石が原因ではなく、部分融解したメルトが異方的に配列していることが原因であると思われる。この内容は、Nature誌に発表された。マントル遷移帯では、電気伝導度の絶対値は、高圧鉱物ほど高くなり、それぞれの相転移境界では不連続が生じるものと思われる。これらの結果とKuvshinov et al.(2005)による上部マントルの1次元電気伝導度プロファイルを比較すると、太平洋下のマントル遷移帯の電気伝導度プロファイルは、ウオズリアイト、リングウッダイトが無水だと仮定しても説明できる。
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