本年度は、ネットワークフィルターの解析でこれまで考慮に入っていなかった、定常速度場の項の導入によるプレート運動とゆっくり地震による地殻変動の分離、および各GPS観測点で推定される変位成分から連続歪場に変換する、それぞれのアルゴリズムの開発とプログラミングを行った。実際のデータへの適用を考慮し、米国のGPS観測網であるSCIGN観測網の観測点の観測配置を使って生成されたシミュレーションデータを使って、新たに組み込まれたアルゴリズムの検証を行った。その結果、観測点間に相関を持つゆっくり地震による地殻変動と、これもまた観測点間で相関を持つプレート運動による地殻変動との間で、場合によりトレードオフが発生し、両者の分離が困難になることがあることが分かった。これにより当然推定される歪場も、ゆっくり地震による真の入力によるものとは異なってしまい、連続歪場の推定も当初の予想よりも困難であることが判明した。原因として、使われていたウェーブレット関数が空間的に広がっている複雑な形であること、また観測点の分布密度が現実には場所によって大きく異なること等によるフィルター内でのデザイン行列が良好でなくなること等が疑われた。 そこで、今までとは違う別のウェーブレット関数の導入、観測点密度を考慮して構築されたウェーブレット関数、あるいはウェーブレットのスケールによる重み付け等を行ったアルゴリズムを新規に導入した。その結果、プレート運動の分離についてはおおよその目処がついた。しかしながら歪変換については、以前よりも向上はしたものの、満足すべき精度を達成できないことが分かった。現状でも、ノイズに埋もれたゆっくり地震の検出という当初の目的においては十分な精度を有するが、他方で、地球物理的な観測手法との多様な比較が可能となる意味で、歪場の精度よい推定が可能になることはインパクトがあるので、フィルタリングにおけるノイズの除去等を通じて精度向上を試みている。
|