本研究課題に関するチリ・パタゴニア地域における現地調査を2006年8月と、12月〜2007年1月の2度にわたって実施した。8月(冬季)には北パタゴニア氷原エクスプロラドーレス氷河周辺において、2004年から測定を継続している気象・水文・土砂観測ステーションのメンテナンスとデータ回収を行なった。12〜1月(夏季)にかけては、この地域で最大の河川であるバケール川下流部のNadis地点に、浮流土砂量モニタリングのための高濃度濁度計を新たに設置して観測を開始した。また氷河融解モデル構築の基礎データを得るために、エクスプロラドーレス氷河上の2地点で気象・融解量観測を実施し、晴天日と雨・曇天日における氷河中央部と側端部における表面熱収支各項を求めた。さらに北パタゴニア氷原周辺地域における蒸発散量とその分布を明らかにするために、ステップ気候下にあるLaguna Chiguayに雨量計を、温帯雨林の分布するエクスプロラドーレス氷河西側の小流域に水位計を設置して観測を開始したほか、各地で森林の葉面積指数の計測なども併せて実施した。このほかに、バケール川河口部のデルタ堆積物に関する予察調査なども実施した。 一方、これまでの観測によって得られたデータ等を用いて、エクスプロラドーレス氷河を含むサブ流域の水・土砂流出モデルの構築を進めた。2005/2006水文年において、氷河融解量が約2300mmと推定される一方、流域内での雨量は約4000mmに達すると考えられる。そのため多くの氷河流出河川とは異なり、融解量の時間変化に対応した流量の時間変化はあまり明瞭ではない。また、季節的雪線高度の変化は小さいにもかかわらず、融解量・雨量の変化に対する流量の応答特性は夏季と冬季とで明らかな差が見られる。
|