本研究課題に関するチリ・パタゴニア地域における現地調査を2007年5月と、10月の2度にわたって実施した。5月には北パタゴニア氷原エクスプロラドーレス氷河周辺において、2004年から測定を継続している気象・水文・土砂観測ステーションのメンテナンスとデータ回収を行なった。10月には、この地域最大の河川であるバケール川下流部Nadis地点に設置した、浮流土砂量モニタリングのための高濃度濁度計のメンテナンスとデータ回収、および浮流土砂のサンプリングを行なった。またエクスプロラドーレス氷河における観測ステーションのメンテナンスとデータ回収、および北パタゴニア氷原東側のLeones谷と、ステップ気候下にあるLaguna Chiguayに設置した雨量計のメンテナンスとデータ回収も併せて実施した。 一方、これまでの観測によって得られたデータを用いて、エクスプロラドーレス氷河流域の水・土砂流出モデルを構築した。従来の氷河流出モデルでは、氷河内の流出システムにおける水理特性の季節変化を、季節的雪線の位置に応じてモデルに与える形式をとるものがほとんどであった。しかし、雪線位置の変化がほとんどないエクスプロラドーレス氷河の水理特性変化を組み込むために、本研究では「氷河への水の供給量の履歴」をパラメータとするモデリングを試みた。その結果、このモデルにより2005/06水文年の流量変化を通年にわたってよく再現できることが明らかになった。また、大気大循環モデル(NCEP-NCAR再解析)の気温・降水量データに統計的ダウンスケーリングを施すことによって、実測気象データを用いずによい流量の推定値が得られることを確認し、大気大循環モデルデータが得られる過去約50年間について、エクスプロラドーレス氷河流域からの水・土砂流出量の変動を再現した。 このほか、「浮流土砂濃度の季節変化」や「氷河の表面熱収支に及ぼす天気パターンの影響」について解析を進め、パタゴニアの海洋性溢流氷河に特徴的な水文・気象特性とその変動に関する検討を進めている。
|