2006年8月のオホーツク海中央部の観測に於いて、冬季混合層の名残である中冷水より下、26.7〜26.75sqの中心密度を持つ低温低塩分水が見つかった。この低温低塩分水の起源は、北部陸棚域からシェリコフ湾に分布する東部陸棚高密度水(eDSW)または冬季混合層の可能性が高い。起源がeDSWである場合、eDSWの一部はオホーツク海中央部へ直接流入していることが示唆される。すなわち、従来の、eDSWは陸棚上を西に流れ、西側の陸棚高密度水と合流もしくはその起源となるという知見とは異なる流出経路の存在を示唆している。一方、起源が冬季混合層ならば、積算海氷面積が過去最小を記録するなど比較的暖冬であった前の冬季でさえ、冬季混合層密度が26.75sqに達していたことになり、平年の冬季混合層密度はそれを越える可能性を示唆する。いずれの場合も、ここで報告する低温低塩分水の観測は、北太平洋中層水の主な起源の一つであるオホーツク海モード水またはオホーツク海中層水の上部を通気する新たな経路の存在を示唆している。以上の成果はJournal of Oceanographyに投稿中である。 また、ロシア側の許可の問題で千島列島における鉛直混合観測が行えなかったので、その代替として千島列島と力学的に状況が似ているアリューシャン列島およびベーリング海陸棚斜面において内部波と鉛直混合の観測を実施した。その結果、振幅200mに達する大振幅内部波を捉えることに成功した。また、鉛直拡散の評価から強い鉛直混合が生じていることが示唆された。これらの内部波過程を数値モデルで定性的に再現し解析した結果、観測された大振幅内部波はシル(海底山脈)上を流れる日周潮流により生成された非定常風下波であることが示唆された。以上の成果は現在国際誌に投稿準備中である。
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