前までの研究で、太平洋熱帯域の蓄熱量は、夏にピークを迎えるエルニーニョの際よりも冬にピークを迎えるエルニーニョの際の方が、大きく減少することが明らかになった。特に、インドネシア通過流の影響が大きいことから、インドネシア多島海の地形を変えることにより、インドネシア通過流を変えた感度実験を行ったところ、南シナ海通過流の存在によって、インドネシア通過流の熱輸送量が年平均で、0.18PWも変化し、太平洋熱帯域の熱収支に大きな影響を与えていることが明らかになった。そこで、今年度は、エルニーニョがこのような熱輸送に与える影響、及びエルニーニョへのフィードバックを海洋大循環モデル(米国GFDL/NOAAで開発されたModular Ocean Model version 3.0(MOM3.0))により調べた。具体的には、南シナ海通過流が通過する海峡を開いた場合(CTRL)と閉じた場合(NOSCST)の実験を行った。それぞれの実験で、20年間スピンアップした後、NCEP/NCAR再解析データの日平均データで1978年から2006年までの29年間積分した。その結果、南シナ海通過流の存在によって、インドネシア通過流の熱輸送量が、エルニーニョ時に0.05PWも減少することが明らかになった。これにより、エルニーニョ時の太平洋熱帯域からの暖水の放出が遅れるため、南シナ海通過流は、太平洋の熱収支への影響を通して、エルニーニョの周期や振幅にも影響を与えている可能性が示唆された。
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