地球温暖化に伴う海面水位上昇は人間社会や環境に大きな影響を与えると予想されている。近年の気候モデルを用いた温暖化予測実験における海面水位上昇は、地域によって全球平均値の2倍を超える値を示しており、この地理的分布の把握およびその要因を理解することは重要である。前年度までの研究によって温暖化時の海面水位分布の要因やその変動に支配的な応答成分などを明らかにした。本年度は観測の結果と比較しながらモデル結果の解析を進めた。この結果、太平洋とインド洋においては温暖化による熱膨張はモード水が沈み込む上部密度躍層までの深さでほぼ説明できることがわかった。これに対し、大西洋では北大西洋中層水が沈み込む水深2000mまでその影響が達している。一方、温暖化に伴う風応力の変化に対する応答は熱膨張などの水塊変質をほとんど伴わず、海洋のフロント構造の移動などによって海面水位分布の変化が引き起こされている。さらに、このような変動パターンの時間発展を調べるため、温暖化時の空間分布のばらつきの時間変動をしらべた。風応力などの外力の温暖化時の空間的な分布パターンはほぼ線形に増加しているのに対し、海面水位分布の時間発展は温暖化初期において特徴的な分布が見られず、20年から30年経過した後で、特徴的なパターンが現れて線形に増加する。これの時間的ずれは、海洋中層などへの沈み込みによる熱の再分配が、海面の外力の変化に対して遅れて応答するためであると考えられる。
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