地球磁気圏のプラズマは、太陽風と電離圏の2つの供給源を持つ。これまで、観測的には、O+やHe++などの重イオンの成分比を用いることで、この2つの供給源の寄与が研究されてきた。その結果、大きな磁気嵐時には、電離圏起源であるO+イオンのリングカレントへの寄与が、劇的に増加することが指摘されている。一方、もう1つの源である太陽風からプラズマシートへのプラズマ供給については、最近の研究から、北向きの惑星間空間磁場(IMF)が長く続いた後に磁気嵐が起こる場合に、低緯度境界層(LLBL)から侵入した高密度の太陽風プラズマが、リングカレント発達に寄与する可能性が指摘されている。 本研究では今年度、統計解析用に、極域から中低緯度までの低高度磁気圏(極軌道)、磁気圏尾部赤道面、および内部磁気圏外縁部(静止軌道)という内部磁気圏へのプラズマ輸送を考える上で鍵となる、(A)磁気圏子午面観測データ(FAST衛星)、(B)プラズマシート観測データ(GEOTAIL衛星)、(C)静止軌道衛星データ(主にLos Alamos衛星群)の3つの衛星観測データセットのうち、特に(A)と(B)を整備し、以下の課題について重点的に研究を行った。 1.低高度極軌道衛星データ(データセットA)を用いて環電流イオンのイオン種別の変動を調べた結果、磁気嵐時の内部磁気圏へのO+イオンの供給には、太陽風動圧の変動が重要な役割を果たしていることが明らかとなった。2.低高度極軌道衛星(A)によってサブストーム時に観測された広いエネルギーでの電子降下を調べた結果、この電子降下が異なる高度で加速された2つの成分から形成されていることが明らかとなった。3.プラズマシートでの観測データ(BおよびC)と数値実験結果の比較を行った結果、KH不安定などによるLLBLでの乱流的な物質輸送が、濃いプラズマシート形成に重要な役割を果たしている可能性が示された。
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